爪をきれいにしている人で思い出すこと
私は爪がいわゆる横爪で手がとてもコンプレックスです。
爪をかんでしまう性格があり、大人になっても直すことができないでいます。
皆さんは、ネイルをなぜするのでしょうか?
なぜ、きれいにしているのでしょうか?
ひとつ思い出すことがあります。
就職したてで、ルート営業をしていたころの話です。
毎月1日になると私は電話をして、ご婦人のところにお伺いするという仕事をしていました。
ご婦人は、50代くらいでお子さんは皆独立し、夫婦で下水道の配管工事の仕事をしていました。社員の方も男の人ばかりで、いつもお伺いする事務所も、書類が山積みで、3畳くらいのプレハブの建物でした。
たばこのにおいが充満していて、お世辞にもきれいなオフィスとは言えない部屋でした。
そこにパソコンと机と、イスと、ケトルと、インスタントコーヒーがありました。
必ず訪問する前には連絡をしていくと、インスタントコーヒーとお茶菓子を用意していてくれました。
いつもニコニコしていて、つらいことがあっても本当ににこにこしている笑顔でいる方で、私はそのご婦人と話すのが好きで、いつも時間を長めに作っては訪問していました。本当は営業しなくてはならないのですが、ご婦人には一回も営業の話をしたことはないですし、ほとんど私が聞き役でいつも話を聞いていました。
ご婦人は麻雀が大好きでした。
毎週木曜日の夜は、近所の麻雀仲間を集めて、自宅で麻雀会をしているほど大好きでした。
「麻雀が息抜きなの。」
そういって笑って話してくれました。
なによりも、麻雀について全くわからない私に対して、麻雀を熱弁してくれました。
その姿が本当に好きで、いつも引き付けられました。
「麻雀はいいよ、勝ち負けじゃないんだよ。楽しいからやるんだよ。」
そういって楽しそうに話してくれました。
「ドレスコードがあってさ。」
ある日、ご婦人は言いました。
「麻雀会はドレスコードがあるんだよ。」
「爪をきれいにしていくんだ。ピンクや、オレンジのネイルをするんだよ。」
そういって笑っていました。
ご婦人は化粧はあまりしておらず、どちらかというと、おしゃれ好きな印象はありませんでした。
手も長年一生懸命働いてきた人の手をしていました。
「らしくないって顔したね。」
そういって私に、にやりとした笑顔を向けて、
「麻雀って相手の手をみるんだよ。じゃらじゃら混ぜたり並べたり。そんな時相手の手先がきれいだとちょっと気分があがるんだよ。」
そういって、インスタントコーヒーを飲んだ顔が忘れられません。
インスタントコーヒー毎回薄かったり濃かったりであんまりおいしくなかったので、よく覚えています。
苦いインスタントコーヒーを私もつられながら飲み、
「麻雀会の時だけするんですか?」
やっと口を開くと
「そうだよ。その時だけ。今日は何色にしよう?って考えながら、準備するんだ。みんなで持ち寄ったお菓子を食べたり、コーヒー飲んだり、基本的には、禁煙だよ。」
「女子会ってやつですか?」
「まぁ、そうだね。」
そういって、
「今日は木曜日だから、早めに仕事終わらせないと。」
そういって、私の提出した書類にサインをしてくれた手はいつもの、一生懸命働いてきた人の手でした。